SGDs(山と海は恋人同士)

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随分と昔の話になる。

高知県のとある製材会社へ出向いた時、その製材会社の社長からこんな話を聞かされた。

その製材会社は、杉や檜の林に囲まれたすばらしい環境の中にある。

うっすらと霧がかかった中、雨上がりの雲間から差し込む朝の斜光に浮かび上がる針葉樹林は、まるで東山魁夷の絵そのものであり、その光景は筆舌に尽くし難いほど幻想的な景色である。

うわぁ・・けっこいなぁ!(綺麗の最上級!?)

良い所へ行きましょう、と連れていかれた所は、杉や檜が鬱蒼と茂った山の中、私の目には、とても素晴らしい山に思えた。

しかし その社長、山の実態を知って欲しくて、ここへ来てもらった。実はこの山不健康なんです、分かりますか?・・・・見たところ、立派な檜がすっくと立ち並んで、檜以外の木は全く見えない、こんな立派な山なのに、不健康!!なんで!!!

間伐等の手入れが出来てない為、地表に太陽の光が届かず、下草も生えていない。

石ガラだらけのこんな山に、大雨が降ったらどうなると思います?

雨は地中に染み込まず、山肌を削りながら地表を流れ、小石まじりの濁流となって川やダム湖に一気に流れ込んでいきます。

また石ガラの山からは、森の栄養分である有機物は流れ出ず海が痩せる原因にもなっています。手入れが出来てない人工林が増えると、山が山としての役割、水を貯めるという水源涵養の役割を果たしてない。いわゆる緑のダムの崩壊です。山が荒れると川が荒れる。川が荒れると海が荒れる。だから山と海は恋人同士。

大きな大きなサスティナブルな循環の輪が途切れてしまっている。

健全な山とは、適当な間隔に間伐された山は太陽の光が地表まで届き、針葉樹(経済の森)の間には低い低層の照葉樹(環境の森)が繁茂し、その照葉樹が冬には葉を落とす、落ちた葉は分解が早く土に栄養を補給する。また雨水を吸収して蓄え地下水を補給するとともに、水の流れをコントロールし、洪水防止の役目を担っている・・・経済の森と環境の森の両立・・・・そんな話だった。

丁度同じ頃、仕事で漁師さんと話す機会があり、同じような話を聞いた。

山が荒れ、川が荒れ、そして荒れて栄養のない海は、沿岸にプランクトンが繁殖せず、そのプランクトンを食べる小魚がいなくなった、そしてその小魚を食べる魚も激減した。魚の繁殖、保護を目的として作られた魚付き保安林も、海が荒れてしまった為本来の機能を果たせず魚が住み着かなくなった。食物連鎖の崩壊です

山が荒れると川が荒れる。川が荒れると海が荒れる。だから山と海は恋人同士。

(山で聞いた話と全く同じ話である。)

我々漁師は、生活の糧の海を守るために山へ木を植えに行っている。

わしらは、こんなけっこい(綺麗)生活の糧の海を、そしてこの浜を守り孫子の代に残していかないかん義務がある。私にはその時、穏やかな漁師さんの目が、一瞬キラッと光ったようにも見えた。

いっぺん、夜明け前に、この浜に沈む月を見て見いや。こんなけっこい景色がこの世にあるんかと・・ホンマに残さないかん景色やで!!

春風に吹かれて、思いついたように夜明け前の、海に沈む月の撮影を行った。

そう言えば、昔漁師さんの話を聞き、いつか夜明け前に燧灘に沈む月を撮りに行きたいと思いつつ、はや10年の歳月が過ぎてしまった。(今回、夜明け前の海に沈む月は撮ったものの私のイメージとは異なっており、次の機会に再撮の予定)

シャッターを押しながら、山と海は恋人同士、その恋人たちは今?そしてサスティナブルな循環の輪は一体どうなっているのか?もう一度、この話を聞きたいと思うが、残念ながら二人とも既に鬼籍の人となってしまった。

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By シュワッチ